第８夜　　花畑

　私は野山を歩いていた。　そこは私の住んでいる街の外れにあった。
　そして、小道の周りには、スイトピーや、スミレなど、淡い青色や、青紫の花々が一面にに咲き誇っていた。
　また、小道は、その花々の散った花弁で被われていた。
　とても美しく、また少し悲しい眺めだった。　
　この美しさを残したくて、写真を撮ろうとしたが、そこを歩く人たちは、
　この美しさは目に入らないようで　立ち止まりもせず前を見て通り過ぎるだけであった。　　

　突然、私は思い出した。「この花はある少女の化身である」、と。
　彼女が花に身を変えたのは何千年前のことであったろう？
　そして、彼女は花に身を変えていつまでも私を待っていてくれたのだ。
　花になった彼女は　忘れ去られた事が悲しかった。　そして、私は忘れてしまったことが悲しかった。
　しかし、私は花に押しつぶされるような幸福感を感じた。
　私は、「ここで死ななければならない」と思った。