第５夜　　鍵穴に住む少女

　ある屋敷で　一人の老人が死んだ。
　老人の身内は二人の女性（四十代と二十代）だけであった。
　その老人は、非常に難しい病気であった。
　直後、屋敷に長年勤めている執事と二人の女性は、屋敷の一室で何かを待っていた。
　すると、二階で足音と子供の笑い声が聞こえた。
　それを聞いた執事が
　「あれは、旦那様の子供の頃にそっくりだ。」
　と言った。　皆は、死んだ老人が　また子供になって　この家に戻ってきたのだと思った。
　執事が二階へ行こうとすると、子供の笑い声は止んだ。

　その屋敷には、これまで一度も開いたことのない扉があった。
　しかし、老人の居ない今、その扉を開けてしまった。
　そこには、小さな一人の女の子が住んでいた。
　（つまり、扉の鍵の中に住んでいた。その女の子は閉じた扉の鍵に閉じ込められていたのだ）
　それからというもの、この家では どのようにしても全ての扉を閉じることができないで、
　どこか一箇所の扉が必ず開いているようになった。

　私が、屋敷の池に佇んで、池に石を投げていたとき、その女の子が近づいてきてこう言った。
　「他の家の鍵の中には住みたくない。　なぜなら、この家の鍵が一番好きだから」　と。